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福島地方裁判所 昭和61年(ワ)142号 判決 1988年3月30日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、各金七五〇万円及びこれに対する昭和五九年五月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和五九年五月二七日午前六時一五分ころ、山形県上山市菖蒲外一字蔵王山外三の三九林班一二小班の道路(通称蔵王エコーライン。以下、本件道路という。)上で、被告運転の自動二輪車(車両番号新潟ま五九四六。以下、本件加害車という。)と訴外鈴木英正(以下、訴外英正という。)運転の自動二輪車(車両番号宮み六二二七。以下、被害車という。)が衝突し、訴外英正は、これにより路外に転倒し、その衝撃により同日午前七時五〇分頃死亡した(以下、右交通事故を本件事故という。)。

2  被告は、本件加害車を保有し、その運行供用者である。

3  原告らは、訴外英正の両親であり、同人の相続人である。

4  訴外英正は、本件事故により死亡し、左記のとおり逸失利益金四六七四万五〇〇〇円の損害を蒙つたが、原告らは、右損害賠償債権を二分の一宛相続取得した。

訴外英正は、昭和五九年三月に東北工業大学を卒業し、同月、株式会社村山鉄工所に就職したものであり、本件事故当時満二二歳であつた。訴外人は、死亡しなければ、満六七歳まで就労可能であつたから、昭和六一年賃金センサス新大卒男子全年齢平均給与額の年額五二六万円を基礎とし、生活費として五割を控除したうえ、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除し、訴外英正の逸失利益の現価を算定すると、合計金約四六七四万五〇〇〇円となる。

(526万円×1/2×17,774≒4674万5000円)

5  原告らは、固有の損害を、次のとおり蒙つた。

(一) 葬祭費 金八〇万円

訴外英正の葬祭費であり、原告らは、各自二分の一ずつ負担した。

(二) 慰謝料 原告一人当り金一〇〇〇万円

原告らは、ようやく社会人となつたばかりの一人息子を失つたもので、その精神的打撃は甚大である。

(三) 弁護士費用 金一五〇万円

本件訴訟に関し、原告らは各自二分の一ずつ負担したものである。

6  右4、5のとおり、原告らは、各合計金三四五二万二五〇〇円の損害賠償債権を取得したが、自動車損害賠償責任保険から金一四〇〇万円を受領したので、損益相殺によりその二分の一ずつを原告各自の損害額から控除すると、原告一人当りの損害合計額は、各自金二七五二万二五〇〇円となる。

よつて原告らは、被告に対し、右損害金の内各金七五〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年五月二七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因事実に対する認否

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  請求原因4の事実は知らない。

3  請求原因5(一)ないし(三)の各事実は知らない。

4  請求原因6の事実のうち、原告らが自動車損害賠償責任保険から給付を受けたことは認めるが、その金額は知らない。

三  抗弁

1  免責(自賠法三条但書)

(一) 本件事故の態様は、被告が自動二輪車(加害車)を運転し、通称蔵王エコーラインを山形県上山市方面から宮城県方面に向けて登坂していたところ、本件道路付近に至り、対向して下つてきた訴外英正運転の自動二輪車(被告車)が、制限速度(時速六〇キロメートル)を超える時速八〇キロメートルの速度で進行し、かつ訴外英正が運転未熟のところからハンドル操作を誤り、本件道路の左カーブを曲がり切れずに車道中央線を越え、被告の進路直前に飛び出して被告の進行を遮つた結果、両車が衝突するに至つたものである。

(二) 従つて、本件道路は、専ら、訴外英正の重大なる過失に基づいて発生したものであり、被告は、右加害車の運転に関し、注意を怠らなかつたものである。

(三) また、加害車の構造上の欠陥又は機能上の障害の有無は、本件事故と関連性がない。

2  過失相殺

仮に免責の抗弁が認められないとしても、本件事故の態様は前項(一)とおりであつて、訴外人英正には重大な過失があるから、九割以上の過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁事実に対する認否

全部否認する。

本件事故は、本件道路上の別紙図面記載×点で加害車と被害車が衝突したものであり、被告には、対向してきた被害車と擦れ違う際、ハンドル操作を誤つた過失がある。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)及び同2(運行供用者)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁1(免責)の事実について判断する。

1  本件事故の態様を、まず、検討する。

(一)  証人布川浩之の証言と検証の結果によれば、本件事故の直前、同証人が自動二輪車を運転し、本件事故現場となつた通称蔵王エコーラインを山形県方面から宮城県方面へと向かつて走行していたところ、本件事故現場の数百メートル東方で、対向して走行して来た訴外英正運転の自動二輪車と擦れ違つたが、その際の訴外人の運転速度は時速約八〇キロメートルであつたことが認められる。右事実と成立に争いのない甲第六号証、被告本人尋問の結果によれば、訴外人英正は、自動二輪車が、時速約八〇キロメートルで、本件道路の事故現場カーブに進入してきたものと認められる。もつとも、対向する車両の速度を判断することは困難なものではあるが、布川証人の運転経験に照らし、前示証言はそれなりの根拠をもつものと思われる。

(二)  次に、証人布川浩之の証言、被告本人尋問の結果、検証の結果、成立に争いのない甲第六号証を総合すれば、被告は、加害車を運転し、本件道路の西側車線を北行し、自車線の中央を時速約四〇キロメートルで進行して来たところ、別紙図面記載1点において、訴外英正運転の被害車を同イ点に発見したことが認められる。右事実と成立に争いのない甲第一号証の一、二、甲第五号証の一、二、甲第九号証、及び被告本人尋問の結果、検証の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故を捜査した山形県警上山警察署における実況見分の結果に基づくものと思われる自賠責保険山形調査事務所の事故状況調査書において、本件事故は北行車線上で発生したものと認定されていること、本件事故の翌日の新聞報道においても訴外英正がセンターラインを越えて対向車線に侵入した事故である旨報道されていること、被告が別紙図面記載1点で同イ点にセンターラインを超えて自車線上に侵入する被害車を認めた後、同2点に至つて危険を感じ、右方向へと回避措置を講じたが及ばず、同○点付近において互いの左側部が衝突したとする被告の供述は、後記乙第一号証の一ないし六により認められる油の流失痕と矛盾するものではなく、その合理性が認められ、これらの事情を総合するときは、本件事故の加害、被害車両の衝突地点は、本件道路上のセンターラインを西に三〇センチ余り侵入した北行車線上(別紙図面記載○点付近)であると認めることができる。

原告鈴木幸平本人尋問の結果中、同人が本件事故後、本件事故現場を訪れたところ、本件事故による油こぼれ跡が残されており、そのこぼれ具合から判断すると、衝突地点は別紙図面記載×点であつたと推測でき、本件事故担当警察官も右と同判断の下に捜査中であると述べていた旨の供述があるが、右原告に同行した訴外斎藤光一撮影による乙第一号証の一ないし六の現場写真に照らすと、右油こぼれの状況から右供述のような衝突地点を認定することは不可能であるうえ、警察官の捜査状況についても直ちに信用し難く、右供述を採用することはできない。また、同原告が作成した甲第八号証も、同じ理由により採用しない。

(三)  さらに、原告鈴木幸平本人尋問の結果によれば、訴外英正が運転していた被害車は排気量が七五〇ccであつたところ、同訴外人は、いわゆる自動二輪車の限定解除により免許を取得したのが昭和五八年一二月であつたことが認められ、同人は排気量の大きい自動二輪車の運転に関しなお経験が浅く、運転技術も未熟であつたことが窺える。

(四)  右(一)ないし(三)の各認定事実及び分離前の昭和六一年(ワ)第四五七号事件原告近仁美本人尋問の結果、被告本人尋問の結果、検証の結果を総合すれば、訴外英正は、本件道路の見通しの悪い左カーブに差しかかり、自己の技量をもつて安全に左転できる速度に減速すべきところ、これを怠り、前記速度のまま進行した結果、左カーブを曲がり切れずに中央線を突破し、別紙図面記載イ点から同ロ点へと進行するに至つたうえ、同○点付近において、被害車左側部を、折から時速四〇キロメートルで北進してきた被告運転の加害車左側部に接触させ、本件事故が発生したものであることが認められる。前記(二)に判示した以外、右認定を左右すべき証拠はない。

2  右認定事実によれば、訴外英正の過失により本件事故が発生したものであることは明らかであるが、さらに、被告の過失の有無についても検討する。

(一)  右認定の本件事故の態様において、被告は、制限速度時速六〇キロメートルのところ、時速約四〇キロメートルで進行している上、別紙図面記載1点において、訴外英正運転の被害車が時速約八〇キロメートルの速度で同イ点からセンターラインを越えて自己車線前方に侵入してくるのをはじめて発見しており、その発見に遅滞があつたとは認め難い。

(二)  また原告は、被告が訴外英正の被害車を発見後のハンドル操作に過失があつた旨指摘するが、前示認定の両車の速度と別紙図面記載1点と同イ点との距離が四三・八メートルであること(検証の結果による。)からは、右両車は、右両点間をわずか一、二秒間で接近したものと推測され、当時被告が右カーブに差しかかり、既に自車を右へと傾け始めていたことも考え合せると、被告が瞬間的に道路左端へ回避することはほとんど不可能であつたと認められる。

(三)  そうであれば、他に被告の有過失を窺わしめる事情はないので、被告には過生が無いものと認めるほかない。他に右認定を左右すべき証拠はない。

3  さらに、以上の各判示ならびに弁論の全趣旨によれば、本件事故の発生には、被告運転の加害車における構造上の欠陥又は機能の障害の有無は、関連性がないものと認めることができる。

4  従つて、被告の免責の主張には理由がある。

三  以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

検証見取図

第1図

<省略>

第2図

<省略>

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